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東京高等裁判所 昭和54年(く)390号 決定

少年 Z・N(昭三七・九・三生)

主文

原決定を取消す。

本件を東京家庭裁判所八王子支部へ差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、右申立人作成名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原裁判所が少年を中等少年院(短期)に送致する旨の決定をしたことは、著しく重く不当な処分である、というのである。

そこで、記録を調査すると、原決定の非行事実は、少年が、友人のA及びBと共謀のうえ、A方六畳間においてC子(当一五歳)に対し、シンナー類を吸入させ同女をそれによつて抗拒不能の状態に陥らせたのち、順次同女を姦淫したというのであるが、少年において当初から同女に対し、シンナー類を吸引させて姦淫するという故意があつたとの点は明確を欠き、当審における少年に対する審問の結果によつても、原決定のこの点に関する事実認定には、疑問があるといわざるを得ない。また、原決定は少年が本件非行において指導的役割を果たしたとしており、記録によると、これはAらによるシンナーの買入れに件う留守に際し、少年が同女を見張つたうえ、最初に姦淫行為に及んだことを指すものとみられるが、少年が同女を見張つていたとの確証も乏しく、原決定の右認定にも難点があるといわなければならない。

加えて、少年は本件非行における首謀者ではなく、Aがすでに被害者を強姦した旨を聞知したのち、Aらとシンナーを吸入中に被害者にも吸入をすすめ、被害者が吸入後マットレスに横になつた際、その寝姿を見て春情を催し少年より順次輪姦したものであること、少年はシンナー吸入により一回補導されたことのほかは、非行歴がなく、しかもシンナー吸入の回数も本件を含め前後二回に過ぎないこと、本件につき逮捕、観護措置により身柄を拘束されたことを契機として、自己の性格上の欠点にも思い至る心境に達し、本件非行を深く反省悔悟していること、少年と両親との間には親和感があり、父親も少年に対する監督が十分でなかつたことを自覚し、その責任の重大であることを認識し、当審における証人Z・S(編注少年の父)の供述によれば、個人タクシー営業時間も昼間に変更して少年に対する今後の指導を誓つているほか、被害者に対しても謝罪の念を強めていること、少年の性格、家庭及び職業環境ならびに友人との交友関係等を総合すると、少年に対しては、社会内において両親及び専門家の指導のもとに、社会人として必要とされる基本的な生活態度を体得させ、更生の道を歩ませることが相当であつて、少年を中等少年院(短期)に送致した原決定の処分は著しく重いものといわなければならない。論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項、同規則五〇条により原決定を取消し、事件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判所裁判官 西村法 裁判官 村田文哉 田尾勇)

〔編注〕 受差戻審決定(東京家八王子支 昭五四(少)五三四七号、六一八四号 昭五四・一二・二一保護観察決定)

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